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マッチング事例

逆駆動する歯車が大ブレイク
横浜国立大学

歯車(ギヤ)は、動力を伝える機械要素で自転車や自動車、時計、自動ドア、エレベーター、エスカレーターなど私たちの身の回りには数多く使われている。その機能は減速や増速、回転軸の向きや回転方向を変え、動力の分割というように動く物には大抵歯車が利用され、工業の発展とともに進化してきた。そのため、古くから研究が尽くされてきて、もう大きな改善の余地はないと考えられていた。

減速機の研究が停滞するなか、横浜国立大学の藤本康孝教授は、2015~2019年度の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業「次世代人工知能・ロボット中核技術開発/革新的ロボット要素技術分野/高効率・高減速ギヤを備えた高出力アクチュエータの研究開発」において、高効率な歯車「バイラテラル・ドライブ・ギヤ」を開発。バイラテラルとは双方向とか二方向といった意味で、最大の特徴は、逆駆動が可能なことだ。

図 バイラテラル・ドライブ・ギヤの試作品

減速機の仕組み

逆駆動がいかに重要かを知るには、減速機(ギヤボックス )の仕組みを知ると分かりやすい。減速機は、その名のとおり歯車などを用いて回転速度を落とす機械装置で、速度を落とす代わりに大きな力を出力できる。モーターで稼働するもののほとんどにこの減速機は 使われていて欠かせない装置だ。

例えば5段変速の自転車は、坂道を登るときに大きな力が必要になる。 ペダル側の歯車を小さくして、タイヤ側の歯車を大きくすると力が大きくなる。このとき漕ぐ力が軽くなったぶん早く漕がなくてはならないので自転車の速度は遅くなる。逆に速度を上げたいときは、ペダル側の歯車を大きくして、タイヤ側の歯車を小さくする。

藤本教授は、減速機の一つである太陽歯車(太陽のまわりを公転する惑星のような定盤の中心に位置する外歯歯車)と、それに連動して回転する遊星歯車からなる遊星歯車装置を複数使用した複合遊星歯車機構において、歯車の歯数や転位係数などの構成要素を最適化し、動力伝達効率を飛躍的に高めた。その結果、従来難しかった100:1を超える高い減速比の減速機でも、柔軟な逆駆動が可能となった。

図 複合遊星歯車機構

加えて逆駆動動力伝達効率を30%ほど向上させ、増速起動トルク(逆駆動トルク)を約300分の1に低減させた。さらに逆駆動による制動時の熱を電気エネルギーとして回収するエネルギー回生を効率化し、モーター情報による負荷トルクの推定さえも可能にした。このことは小型軽量化や低コスト、省エネも同時に実現できる。

歯車の技術では、ロボットの関節に使用されている減速機が外力に対して柔軟に動くための逆駆動はできていなかったが、接触の衝撃を吸収させ安全性の確保が可能となるという。ロボット以外でもEV(電気自動車)、電動自転車の変速機など幅広い用途に展開できる。

バイラテラル・ドライブ・ギヤ 機能の特徴

  • 高い減速比の減速機でも、逆駆動が可能(従来不可能だった逆駆動が高く評価されている)
  • 各歯車形状をインボリュート曲線(線筒に糸を巻きつけて、緩みがないよう引きほどいていったときに、糸の先端が描く曲線)とすること(従来技術)
  • 動力伝達効率を最大化する自動計算ソフトウェア(重要になる技術)

機能を実現させる技術的ポイント

  • A遊星歯車機構を同軸上に2段に重ねる(従来技術)
  • B各歯車形状をインボリュート曲線(線筒に糸を巻きつけて、緩みがないよう引きほどいていったときに、糸の先端が描く曲線)とすること(従来技術)
  • C動力伝達効率を最大化する自動計算ソフトウェア(重要になる技術)

①とCを組み合わせることで、より効率化が図れることが解明され、歯車の動きを最適化する自動計算ソフトウェアも開発した。

多くの企業と共同研究、製品化へ

藤本教授は2018年6月、東京都千代田区で行われた国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する横浜国立大学新技術説明会で、「人に優しい省エネルギーロボットアクチュエータ」をテーマにバイラテラル・ドライブ・ギヤを発表。

2020年、アクチュエータ・モーターなどを製造するピーエス特機株式会社(埼玉県熊谷市)が、バイラテラル・ドライブ・ギヤの特許を使用し「3K型複合遊星ギヤ」として販売開始。同社は論文などで熱心に新しい技術について探索しており、共同研究開始直後に 、藤本教授がバイラテラル・ドライブ・ギヤを発表することから、新技術説明会も聴講。満を持して製品化した格好だ。

2022年には、東京都品川区のベアリングメーカー日本精工株式会社(NSK)が、バイラテラル・ドライブ・ギヤを減速機構に使用した「協働ロボット用 アクチュエータ」を、国際ロボット展に出展。引き合いを注視しているところだ。同社は、新技術説明会が契機となり連携を開始。このアクチュエータは、高い逆作動効率を持つバイラテラル・ドライブ・ギヤを搭載することで、逆作動効率を従来比20%まで向上させ、ロボットアームが人と衝突した際の負荷トルクを高精度で検出。モーター制御することで、人とロボットが衝突した際の衝突力を緩和させる。このほか、アクチュエータ自身で衝突を検出するため、従来の協働ロボットに必要な検出用のセンサーや配線をなくした。

論文、学会、展示会、研究広報、プレスリリース、ニュース、口コミ...など、リアルとインターネット、新しい技術を知るきっかけは多様化する。「講演の配信ビデオや資料から引き合いは結構あります」と藤本教授と担当のコーディネーター が口をそろえて言うように、新技術説明会に参加できなくても、新技術説明会のウエブサイトで公開している資料や動画配信から興味を持ち、大学へ問い合わせが入るケースは多いという。

精密小型モーターや制御用電子回路など製造するオリエンタルモーター株式会社(東京都台東区)も、新技術説明会を聴講後横浜 国立大学に問い合わせがあり共同研究中だ。またプラスチック製品製造のスターライト工業(大阪市)も、同様に問い合わせがきたという。同社は、独自の樹脂製品にバイラテラル・ドライブ・ギヤ技術の応用を検討しているようだ。

手厚い大学のサポート

横浜国立大学は、産学連携に熱心で、共同研究契約などのサポートは、産学官連携推進部門のコーディネーターが調整役となり、連携を推進する役割を担う。

写真 藤本康孝教授

コーディネーター:先生方が役に立たせたいと願う技術を把握し、プロモーションしていきます。産学連携を進めるうえで、新技術説明会は大いに効果を挙げています。大学にとって確度の高い連携情報交換の場で、重要視しています。企業も新技術説明会を上手に活用しているようです。

藤本:新技術説明会は展示会と異なり、発表するテーマにピンポイントで企業が参加できるので効率的なコンタクトができるのも魅力の一つです。発表後の名刺交換の人数などからも技術への手応えが見て取れます。バイラテラルは、大変多くの方が行列を作って並んでくれたので、自分の開発した技術がどう評価されているかを肌で感じることができるのです。その成果が、今でも問い合わせがあり複数社と共同研究をしています。

2021年6月新技術説明会で発表された「直進運動と回転運動が可能な高推力・高トルク2自由度モータ」についてはいかがですか。

藤本:バイラテラル・ドライブ・ギヤは、幅広い用途が考えられるので多くの企業から引き合いがありますが、2自由度モータは 、特定用途なので応用先の大きさが違うなと感じました。発表テーマを検討する際の参考になりました。

今後の新技術説明会へのご意見があれば聞かせてください。

コーディネーター:開発した技術のアピールの場としてはプレスリリースや報道記事もありますが、詳しい技術的内容は掲載されません。新技術説明会では、説明や発表資料に技術的内容が織り込めるので、技術に興味のある企業にとって価値が高いのではないでしょうか。新技術説明会でコンタクトのなかった企業も、ウエブサイトに掲載されている発表資料をもとにコンタクトしてくることもありますね。

開催形態については、対面とオンラインそれぞれ長所と短所があります。オンライン開催は、スケジュールを調整しやすいですが、対面だと移動を含め少なくとも半日は時間を割かなくてはならず、4~5人の先生方に同時に集まっていただくのは大変で調整に苦労します。発表者が多くなるとオンライン開催の長所が効果を挙げると思います。

大手メーカーから、独占契約の打診も。

藤本:大変ありがたい申し出でしたが、幅広いアクチュエータなので、用途を考慮しながらより多くの企業に使ってもらいたいと当初から考えていたので、それが実現していっていると感じます。

ありがとうございました。

取材/構成 山口泰博
国立研究開発法人科学技術振興機構
スタートアップ・技術移転推進部産学連携プロモーショングループ

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