マッチング事例
散薬鑑査支援装置(コナミル)の開発で
製品化を実現
製薬メーカー勤務を経て、就実大学で分光分析技術の研究を行っていた森山圭氏(元 就実大学 准教授、現 ウィズレイ代表取締役)は、薬剤師の現場でのニーズを強く感じて、散薬鑑査支援装置(コナミル)の開発に取り組みました。2019年11月に開催された国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する新技術説明会での発表がきっかけになり、資金調達やネットワークの構築が加速し、製品化を実現しました。
森山 圭
株式会社ウィズレイ代表取締役
(元 就実大学 薬学部 薬学科 准教授)
分光分析により医薬品を識別できる装置を開発。薬剤師が対人業務に集中できる環境を構築することを目的として2019年に設立されたスタートアップ企業。
開発の背景と目的
薬剤師の"本来の業務"とは?
分光分析は、非破壊、非接触で対象の成分を分析できるので、製薬の世界では重要な分析ツールです。森山氏は大学に移籍してからも分光分析の研究を続け、薬剤師の日常的な業務にも分光分析が役立つと強く感じていました。
「小分けにした粉薬を目で見て判別することはできません。薬剤師は何度も確認するなどして、患者さんに薬を渡します。しかし、分光分析であれば、袋の中の薬を確認することができます。分光分析を利用することで、患者さんに薬の説明をしたり、医師とのやり取りをするなど、薬剤師本来の仕事に時間を割けるようになるはずです」と森山氏は「コナミル」開発のきっかけを振り返ります。
大学の技術を製品化する際には、企業との共同研究などで開発することが一般的です。しかし、森山氏は自ら起業することを選択しました。
より早く「製品」として現実のものしたい。そのためには、自ら起業することが最適解でした。
新技術説明会の効果
2019年の「新技術説明会」に参加した森山氏は、発表資料の作成に意外なほど手間がかかったと打ち明けます。
「社会実装を目指す場では、資料の構成や見せ方が学会発表とは大きく異なります。当時その点が腑に落ちず、作り方の違いに苦労しました」と話す森山氏。起業した今は、その違いの重要性がよくわかるといいます。
また、デモンストレーションの重要性も強調します。「特にハードウェアの場合は効果的です。完璧なものである必要はありません。模型でも実物があることでアイデアが具体化し話が膨らみます」
新技術説明会で試作機を会場に持ち込み、デモンストレーションを行った森山氏には、ある企業から声がかかります。この新技術説明会での出会いが、後に資金調達や販売ネットワークの構築へとつながっていったのです。
モックアップを自分で作ることで、「これを作りたい!」という熱意が伝わります。
上市に向けた開発
ボタン一つで測定する
「コナミル」の開発にあたって、もっとも苦労した点は操作性と分析精度の両立だったといいます。
「薬剤師は薬のプロですが、分析のプロではありません。分包を置いただけで、かんたんに測定できることは重要な要件でした」と森山氏はユーザーに寄り添った操作性が必要だと指摘します。
また、学会発表や論文では、いわゆる「チャンピオンデータ」が重要視されますが、薬局などで使用する「コナミル」では、安定した分析精度が求められます。森山氏は、「光の当たり方が違うと、測定結果の誤差が大きくなります。装置形状を工夫したり、自動調整するアルゴリズムを開発するなど、使い勝手と精度の両立には苦労しました」と話します。
こうして2023年12月にハンディタイプの「コナミルモバイル」、2024年4月には重量鑑査も同時に行える「コナミルベース」が発売されました。
ボタン一つでブレのない精度の測定を実現することは、予想以上にたいへんでした。
今後の展開
災害支援や犯罪捜査にも
森山氏は最初に製品化を実現した「コナミルモバイル」について、「薬局や病棟などの医療機関での使用に加え、大規模災害時の避難所などでの活用を想定しています。さらに、携帯性を活かして、空港や税関などでの違法薬物の検出にも利用できると考えています」とさまざまなシーンで活用できるといいます。また、製品開発については「『コナミルベース』は薬剤師が日常的に行っている重量鑑査がヒントになりました。今後は点滴などの液体にも対応する製品も開発していきます。新製品のアイデアやニーズはまだまだたくさんありますので、製品化を目指して開発を続けていきます」と今後の展開にも意欲を見せます。
薬剤師の専門知識と最先端テクノロジーを融合させ、新たな可能性を切り拓いてきた森山氏。社会に貢献する未来を見据え、圧倒的な熱量をもって前進する姿には、大きな期待と注目が集まっています。
メッセージ
新技術説明会に来る企業の皆さんには、発表者の熱意を感じ取ってほしいと思います。発表者はプロトタイプやモックアップを使ったデモンストレーションをし、こんなものを作っている、作りたいということを具体的にアピールする。新技術説明会はそのための格好の場所です。研究者の立場では戸惑うこともあると思います。しかし、社会実装のためには、学会での発表とは異なるアプローチや努力が必要だということに気づくことが、幸運な出会いにつながると思います。
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PRODUCT PROFILE
薬剤師は、知識や技能だけでなく、コミュニケーション力や予防医学、衛生学などに関する高いスキルを有しています。
薬剤師が調剤業務を中心とした対物業務から解放され、服薬指導などの対人業務に集中することで、薬剤師が地域住民の健康向上の中心的役割を果たすことができるようになると期待されます。
薬剤鑑査装置「コナミル」は手間のかかる鑑査・鑑別業務の機械化・省力化を実現し、薬剤師の対物業務を軽減し、患者さんの健康増進に貢献します。