健康・医療 新技術説明会
日時:2016年10月18日(火) 10:55~15:55
会場:JST東京本部別館1Fホール(東京・市ケ谷)
参加費:無料
主催:科学技術振興機構、名古屋市立大学、大阪市立大学、岐阜薬科大学、静岡県立大学、横浜市立大学
後援:特許庁
発表内容一覧
発表内容詳細
- 創薬
1)加熱加工によるハチミツからの免疫賦活活性物質
名古屋市立大学 薬学研究科 生薬学分野 教授 牧野 利明
新技術の概要
東洋医学の古典の記述を元に、ハチミツを加熱加工することにより、消化管免疫賦活作用をもつ化合物が生成することを見いだした。この化合物の生成には、至適な加熱温度と時間があり、ハチミツの炭化を防ぎながら加熱することが重要となる。現在はこの化合物の化学構造の解析中で、構造決定後に特許出願予定である。
従来技術・競合技術との比較
ハチミツ業界にとっては、加熱殺菌時に生成するヒドロキシメチルフルフラール(HMF)がハチミツの劣化の指標とされ、加熱加工自体を忌避する傾向がある。一方で、HMFは糖尿病などに予防効果も期待され、HMFに対する評価は分かれている。今回、発見した化合物はHMFではないことは明らかにしており、現在、化学構造を解析中である。
新技術の特徴
・従来からある身近な食品を加工することにより新たな機能性が現れる。
・東洋医学で永年、培われてきた知恵と経験に基づいている。
・得られる機能性成分はこれまでに知られていない新規化合物であることが期待できる。
想定される用途
・機能性食品の開発
・食品業界への調理方法の提案
- 医療・福祉
2)食事履歴が血中リン脂質分子種で推察できる
静岡県立大学 食品栄養科学部 栄養生命科学科 教授 三浦 進司
新技術の概要
炭水化物あるいは脂質の過剰摂取はメタボリックシンドロームの発症原因であるため、食事摂取状態の正確な把握は、メタボリックシンドロームの予防・治療において不可欠である。そこで本技術では、空腹時に血液を採血し、血漿中のリン脂質分子種の定量を行い、これらリン脂質分子種の変化をもとに、炭水化物あるいは脂質の過剰摂取状態を診断する。
従来技術・競合技術との比較
従来から実施されている管理栄養士による食物摂取頻度調査は、被験者の「思い出し」による習慣的な食品別の摂取頻度を大まかに調べるのみで定量性に欠けており、現状では正確に原因を明らかにできないまま食事介入を行っている。
新技術の特徴
・血漿中のリン脂質分子種を測定する。
・長期にわたる炭水化物と脂質の摂取比を推定できる。
想定される用途
・人間ドックでの食事調査
・臨床現場での食事指導の実施状況の把握
・疾病発症リスクの推定
- 創薬
3)ヒトDNA修復酵素を標的とした阻害剤スクリーニングの新戦略
横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科 生命環境システム科学専攻 教授 足立 典隆
新技術の概要
がんの悪性度と高い相関のあるヒトDNAポリメラーゼθの活性を阻害する物質を効果的にスクリーニングするための材料と方法。また、ベクターDNAのゲノム中へのランダムな挿入を抑制することにより超高効率で遺伝子改変を行うための技術。
従来技術・競合技術との比較
従来技術では開示されていないポリメラーゼθ特異的阻害剤のスクリーニングに有用な手段を開発した。また、相同組換えによる遺伝子ターゲティングが困難なヒト細胞において、人工ヌクレアーゼを用いずに効率良く標的遺伝子改変を行うための手法を開発した。
新技術の特徴
・生細胞を利用してDNAポリメラーゼθを阻害する物質を効果的に探索できる。
・スクリーニングの効果の有無を細胞レベルで確実に検証できる。
・ランダム挿入を効果的に抑制する新技術を開発することで、遺伝子ターゲティング技術を高効率化できる。
想定される用途
・DNAポリメラーゼθを阻害する物質のスクリーニング
・スクリーニング方法を活用することによる、特異性の高い阻害剤の開発
・ゲノム改変技術への応用
- 創薬
4)血管新生阻害剤の神経保護剤としての可能性
岐阜薬科大学 薬学部 薬効解析学研究室 教授 原 英彰
新技術の概要
アフリベルセプトは滲出型加齢黄斑変性症に適応のある薬であるが、萎縮型加齢黄斑変性症モデルにおいて保護作用を示したため、萎縮型加齢黄斑変性症にも有効である可能性が考えられた。本発明は治療満足度の低い萎縮型加齢黄斑変性症に対するアフリベルセプトの新たな治療戦略を提案するものである。
従来技術・競合技術との比較
アフリベルセプトはすでに滲出型加齢黄斑変性症、網膜静脈閉塞症などに適応のある薬であり、臨床的に使用されている薬である。しかし、滲出型とは病態の異なる萎縮型加齢黄斑変性症における作用は不明であった。本発明は加齢黄斑変性症の両タイプ(萎縮型、滲出型)に効果を示す新たな治療の可能性を提案できる。
新技術の特徴
・網膜神経保護
・適用拡大
想定される用途
・萎縮型加齢黄斑変性症に対する網膜神経保護薬
- 創薬
5)ウイルスの生物学的特性を利用した新規抗ウイルス剤創出
大阪市立大学 医学研究科 肝胆膵病態内科学 准教授 村上 善基
新技術の概要
HBV感染は慢性肝炎から肝硬変に至り肝細胞がんを発生する。現在のウイルス治療は逆転写酵素を阻害する核酸アナログ製剤が主で、副作用が少ないものの治療中断により高率に再発するため、長期にわたる治療が必要である。今回我々は宿主細胞のウイルス複製因子の機能を阻害する低分子化合物を5種探索した。
従来技術・競合技術との比較
現在使用している薬剤はインターフェロンと逆転写酵素阻害剤であるが、我々の低分子化合物は従来のものと作用ポイントが異なる。in vitro実験では現在臨床で主に使用されているエンテカビルより抗ウイルス効果があり、細胞毒性は見られなかった。
新技術の特徴
・標的タンパクのモデル化
・アロステリックではない標的タンパクを阻害する低分子化合物の探索
・効率の良い低分子化合物のスクリーニング
想定される用途
・標的タンパク阻害物質の探索
・pathwayの機能解析
・タンパク=低分子化合物の結合シミュレーション
- 医療・福祉
6)腎臓病治療薬開発やアンチエイジング研究に有用な寿命短縮化マウス
横浜市立大学 医学部 循環器・腎臓内科学 教授 田村 功一
新技術の概要
Agtrap遺伝子がコードするタンパク質(ATRAP)の機能が阻害されていることを特徴とする、寿命短縮化モデル非ヒト哺乳動物(ATRAP欠損マウス)を提供した。ATRAPを欠損させた非ヒト動物では腎線維化の増悪(すなわち慢性腎臓病の進行した病態)が見られ、その他外観の異常がないまま寿命が有意に短縮化する。
従来技術・競合技術との比較
従来知られている各種の老化モデルマウスは、全身に広範な老化形質を呈し、明らかに異常な外観を有するが、ATRAP欠損マウスではこれらの公知の老化モデルマウスとは異なり、外観の異常がなく、老化形質自体は対照の野生型マウスと同等である。
新技術の特徴
・ATRAP欠損は、老化にともなう外観の変化について明らかな影響を及ぼさない。
・ATRAP欠損は、老化にともなう心臓、血管、血圧系あるいは糖、脂質代謝等の生理的機能指標の変化に明らかな影響を与えない。
・ATRAP欠損は、老化にともない腎でのミトコンドリア異常、腎臓繊維化亢進をともない、寿命を短縮化する。
想定される用途
・不可逆的とされ重要度が高い重症腎疾患(末期腎不全を包含する慢性腎臓病)の治療薬の開発研究
・初期~末期の腎不全を包含する腎組織の線維化を伴う各種の慢性腎臓病の治療に有効な薬剤のスクリーニング
・長寿化作用のある医薬品ないしは健康食品・健康補助食品等のスクリーニング
関連情報
・展示品あり
- 創薬
7)がんの診断や治療に有用なヒト型リコンビナント抗体の開発
静岡県立大学 薬学部 薬学科 教授 伊藤 邦彦
新技術の概要
Bリンパ腫患者骨髄細胞から抗体遺伝子ライブラリーを構築し、HeLaS3生細胞に対するパニングによって、rFab(AHSA)を単離した。さらに、認識抗原が細胞外マトリックスCSPG4であることを明らかとした。CSPG4は多くのがん種で発現が確認されており、AHSAは、がんの診断や治療に有用なツールになるものと期待される。
従来技術・競合技術との比較
CSPG4を分子標的とする抗体医薬はまだ上市されていない。CSPG4の発現が確認されているがん種であるメラノーマ、トリプルネガティブ乳がん、悪性中皮腫などは標準化学療法に抵抗性であり、予後不良となる。今回開発したAHSA を完全IgG化し、標準治療に上乗せすることにより、治療効果の向上が期待される。
新技術の特徴
・メラノーマの診断、治療における有用性
・トリプルネガティブ乳がん治療における有用性
・悪性中皮腫の診断、治療における有用性
想定される用途
・がんの画像診断
・がんの血清診断
・がんの治療薬
- 創薬
8)リン酸恒常性異常モデルを用いたPDGF-BB関連化合物スクリーニング法
岐阜薬科大学 薬学部 薬物治療学研究室 助教 栗田 尚佳
新技術の概要
これまでに、リン酸代謝異常を標的としたスクリーニング系は確立されていない。本技術は、リン酸恒常性異常モデルの細胞死保護にPDGF-BBシグナルが寄与するという知見を基に、リン酸代謝異常に対して有効なPDGF-BB関連低分子化合物などを合理的且つ効率的にスクリーニングする方法を提供し、リン酸代謝異常に対する治療法の確立に資する。
従来技術・競合技術との比較
本技術は、ウエスタンブロット法などの従来法の組み合わせであるため、スクリーニング法としては簡便で効率的な方法である。これまでに、リン酸代謝異常に注目した薬剤スクリーニング系はなく、競合技術は存在しない。
新技術の特徴
・リン酸代謝異常を標的とする。
・PDGF-BBシグナル活性を基盤とする。
・リン酸代謝異常およびPDGF-BBに関する幅広い疾患への応用が期待できる。
想定される用途
・治療薬候補化合物のスクリーニング
・リン酸代謝異常に関するシグナル経路解析
- 創薬
9)様々な細胞に入るDNAアプタマー
大阪市立大学 工学研究科 化学生物系専攻 准教授 立花 亮
新技術の概要
Cell SELEXによって、様々な細胞に入るDNAアプタマーを得た。DNAアプタマーはHEK293T、HeLa、3T3-L1細胞など細胞種を選ばず細胞表層に結合し、細胞内に入ることがわかった。アプタマーに結合したDNAも細胞に導入しうることを見出している。
従来技術・競合技術との比較
トランスフェクション剤(カチオン性脂質、デンドリマーなど)の助けを必要とせず、細胞内にDNAを始めとする核酸を導入できる。また、DNAであるので、細胞表層に結合するRNAアプタマーに比べ、安定性などが期待される。
新技術の特徴
・細胞内へ非透過性物質のデリバリー
・細胞内へDNA結合性物質のデリバリー
・細胞表層に一時的にDNAを提示できる。
想定される用途
・siRNAのデリバリー
・miRNA阻害剤のデリバリー
・細胞表層でのDNAの提示
関連情報
・外国出願特許あり
- 創薬
10)筋肉量を維持・増加する天然成分の同定
名古屋市立大学 薬学研究科 神経薬理学分野 准教授 大澤 匡弘
新技術の概要
高齢者やがん患者などの活動量低下の原因である骨格筋量の減少を迅速に評価できる動物モデルを開発した。また、骨格筋量の維持にはインスリンと呼ばれるホルモンの機能が大切であるが、そのインスリンの反応性を高める物質を大量のサンプルの中から迅速に同定できるスクリーニング系を開発した。
従来技術・競合技術との比較
骨格筋量の低下を評価するため、通常は高齢の動物(2年齢)を用いるが、本技術では18週齢程度を用いる。また、2~3週間程度の期間で、試験物質の評価ができる。さらに、インスリン抵抗性を改善する成分の同定には細胞を用いたスクリーニング系を確立しており、大量のサンプルを高速かつ迅速に評価することができる。
新技術の特徴
・インスリン抵抗性を改善する成分を迅速に同定できる。
・筋肉量の低下が短期間で評価できる。
・がんによる悪液質(特に、異常な痩せ)を緩徐にする成分を同定できる。
想定される用途
・ロコモティブシンドロームの改善を可能にする成分の同定
・がん悪液質の異常な痩せを改善する成分の同定
・糖尿病の進展を緩徐にする天然成分の同定
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