産総研 生命工学領域 新技術説明会
日時:2017年07月13日(木) 09:55~14:55
会場:JST東京本部別館1Fホール(東京・市ケ谷)
参加費:無料
主催:科学技術振興機構、産業技術総合研究所
後援:特許庁
発表内容一覧
発表内容詳細
- アグリ・バイオ
1)カビ・キノコ由来の多様な新規環状ペプチド生合成遺伝子群シーズ
産業技術総合研究所 生命工学領域 生物プロセス研究部門 企画主幹 梅村 舞子
新技術の概要
微生物はシクロスポリンなど多くの生理活性環状ペプチドを産生することで知られる。今回、リボソーム経由で生合成される新規環状ペプチド化合物と生合成経路のクラスを、カビ・キノコ類から数多く見出したのでご紹介する。
従来技術・競合技術との比較
これまでカビ・キノコ類で主に知られていた環状ペプチド生合成経路とは異なり、化合物骨格構造がリボソームで生合成されるため、化合物デザインを遺伝子レベルで行いやすいのが特徴である。また骨格構造と修飾酵素の組み合わせが多岐に渡るため、多様な構造設計に対応できると期待される。
新技術の特徴
・環状ペプチド化合物のデザインにおいて、化合物骨格構造を遺伝子レベルで制御可能
・多様な骨格アミノ酸配列と修飾酵素の組み合わせシーズにより、環状ペプチド化合物生合成に幅広く対応
・エーテル結合による特徴的な環状化構造を形成可能
想定される用途
・抗多剤耐性菌薬や免疫抑制剤等の薬剤
・薬剤補助化合物
・共生微生物を介した農作物等への機能付与
- 創薬
2)スプリットインテインを利用した環状化反応によって、サイトカインを安定化改変する手法
産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオメディカル研究部門 研究員 宮房 孝光
新技術の概要
環状化ペプチドが注目を集める一方で、環状化タンパク質は「合成が困難」、「安定性向上の度合が小さい」ために実用化が進んでいない。本技術では、バイオ医薬品としても利用されるサイトカインを題材に、環状化タンパク質を簡便に合成する手法および、より高安定な環状化タンパク質を取得する手法を開発した。
従来技術・競合技術との比較
タンパク質の安定化改変は、アミノ酸置換やポリエチレングリコールの付加が一般的である。これらの従来技術では、活性・機能の低下や免疫原性の上昇といったマイナスの効果が生じる場合も少なくない。一方、環状化はポリペプチド鎖末端の局所構造のみを改変する手法であり、リスクの低い安定化技術である。
新技術の特徴
・サイトカインを大腸菌内で高効率に環状化させる手法を開発
・“最小限”の改変で、タンパク質の熱安定性を向上させることが可能
想定される用途
・安定性の点で高機能化を果たしたバイオ医薬品
・環状化手法はポリペプチド鎖末端の近接する多くのタンパク質に応用可能
関連情報
・外国出願特許あり
- アグリ・バイオ
3)タンパク質の特徴情報を出力できる高分子アレイを利用したバイオメトリクス技術
産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオメディカル研究部門 研究員 冨田 峻介
新技術の概要
タンパク質や導入された翻訳後修飾に対して多様な交差反応性を有し、かつタンパク質と結合すると蛍光を生じる特性を持つ高分子群を配置したアレイにより、タンパク質の特徴情報を応答パターンとして出力する。得られたパターンを機械学習により解析することで、タンパク質や翻訳後修飾を高精度に同定することができる。
従来技術・競合技術との比較
抗体を用いる従来のタンパク質検出法ではマイナス要因となる「交差反応性」を活用する。多数の交差反応的な応答を統合することで、特異性に頼ることなく高精度なセンシングを実現できる。作製が容易で安価かつ安定な高分子を用いるため時間的・経済的コストを大きく抑えられる。ELISAなどの従来法と比べて検出系がシンプルかつ迅速である。
新技術の特徴
・特異性の高い抗体のような認識分子を利用する従来のタンパク質検出法とは逆の発想に基づく。
・センシング系を構成する高分子の種類や数を自在にアレンジできるので、ターゲットの種類やその性質に合わせた検出系の構築が容易である。
・ターゲットのサンプルにどんなタンパク質がどれだけ含まれるかに関する情報がなくても、サンプルを定義さえできれば(例:正常サンプル、異常サンプルなど)、センシング系を構築することができる。
想定される用途
・タンパク質製品(医薬品など)などに含まれている異常なタンパク質の検出。
・タンパク質混合物(血清、尿、細胞破砕液など)など素性が明確でないサンプルの識別・特徴づけ、およびそれを利用するスクリーニング。
関連情報
・外国出願特許あり
- 材料
4)ミドリムシ由来多糖高分子を原料とした有機材料の開発 - 廃水から高付加価値物質創製の可能性-
産業技術総合研究所 生命工学領域 バイオメディカル研究部門 上級主任研究員 芝上 基成
新技術の概要
ミドリムシが大量に産生する多糖を出発原料として、樹脂やナノファイバーの調製法を確立した。セルロース由来の同種の素材に比べて、ミドリムシ由来の樹脂は高い熱可塑性を発揮し、ナノファイバーは溶液中での高分散性を有する。ミドリムシは廃水を利用した培養も可能であることから、無価値の資源から高付加価値素材を産み出す「素材生産工場」といえる。
従来技術・競合技術との比較
セルロースを出発原料とした同種の素材の研究開発が行われている。熱可塑性樹脂についてはミドリムシ由来樹脂の熱可塑性がより高く、熱成形が可能である。ナノファイバーについてはセルロースナノファイバー調製に用いる機械的解繊を主とするトップダウン法と異なるボトムアップ法で調製でき、製造プロセスの低廉化や高分散性を付与する化学修飾がより容易となる。
新技術の特徴
・環境負荷の高いハロゲン系溶媒を利用しない無溶媒製造プロセスに基づく熱成形が適用可能な熱可塑性樹脂
・樹脂フィラーから医用材料素材等として利用可能な高分散性ナノファイバー
・無価値な廃水を利用した大量培養が可能であるミドリムシ由来の、環境に優しいバイオマス素材
想定される用途
・高付加価値樹脂系材料
・医用材料・食品添加物・樹脂フィラー用ナノファイバー
・廃水処理
関連情報
・外国出願特許あり
- 創薬
5)細胞の自在操作を実現する新規光応答性ポリマー 〜しなやかな半立体マイクロ構造体の露光作製と光で素早く水溶化する材料〜
産業技術総合研究所 生命工学領域 創薬基盤研究部門 上級主任研究員 須丸 公雄
新技術の概要
新開発の光応答性バイオポリマー群とマイクロプロジェクタを組み合わせて、しなやかでウェットな半立体マイクロ構造体を露光作製する技術、さらには、新開発ポリマー材料を固体状態から光でオンデマンドに水溶化させる技術を紹介、それらが実現する新しい細胞操作・細胞培養システムについて述べる。
従来技術・競合技術との比較
一般的には作製に3次元走査を要する立体的な構造を、2回の異なるパターンの照射で作製、実現する構造は限定されるが、様々なポケット状の構造形成が可能。また、新開発の光水溶化ポリマーは、水を含まない固体状態から、1秒程度の光照射で速やかに水溶化、従来の光分解性材料では困難であったオンデマンド操作を実現。
新技術の特徴
・量産可能な半立体ハイドロゲル構造体
・光を1秒照射することで固体状態から素早く水溶化するポリマー
・半立体構造や細胞、微粒子、タンパクなど微小物体を光で自在に操作
想定される用途
・バイオチップ
・細胞操作・細胞培養システム
・光アクチュエータ
関連情報
・外国出願特許あり
- アグリ・バイオ
6)遺伝子操作により種子の劣化を抑制する技術
産業技術総合研究所 生命工学領域 生物プロセス研究部門 研究員 大島 良美
新技術の概要
植物種子を高品質な状態で長期間保存することは農業上または生物資源の維持において重要である。本技術により、種子表面のクチクラを増加させることで、劣化が進みやすい条件下で発芽能力を維持させることが可能となった。
従来技術・競合技術との比較
種皮の最外層を覆っている脂質性ポリエステルとワックスから成るクチクラに着目し、転写因子を用いて適切なタイミングでクチクラ蓄積量を増加させることで、種子本来の能力を損なうことなく種子の保存性を向上させることが可能となる。
新技術の特徴
・高温多湿に対する耐性向上
・転写因子の機能強化による種皮の改良
・植物種に広く保存された遺伝子の機能を利用
想定される用途
・短寿命種子の寿命改良
・種子成分の劣化防止
関連情報
・外国出願特許あり
- デバイス・装置
7)単一光子で分光可能な超伝導光検出器のバイオ応用~極僅かな光でカラー撮影できる光子顕微鏡の試作~
産業技術総合研究所 計量標準総合センター 物理計測標準研究部門 主任研究員 丹羽 一樹
新技術の概要
超伝導転移端センサー(TES)は、光の最小単位である光子を一つずつ検出し、同時にその光子の波長を測定することができ、可視から近赤外(波長で最長1800nm程度)までの光子を検出可能である。このTESを応用し「光子顕微鏡」を試作し、高感度カラー撮像に成功した。
従来技術・競合技術との比較
極めて高感度で、既存の検出器では完全に取り除くことができないダークカウントシグナルが、500秒の測定でも検出されない。分光器あるいはフィルターを必要としない分光検出器はこれまでになく、また可視から近赤外にまで高い感度を有するのも特長である。
新技術の特徴
・単一光子を検出できる高感度
・光子の波長を一つずつ測定
・近赤外まで高感度に検出
想定される用途
・広帯域高感度スペクトル測定
・高感度分光イメージング
・光学測定による生体物質の超高感度検出
関連情報
・外国出願特許あり
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