東京工業大学 新技術説明会
日時:2017年10月17日(火) 10:00~15:55
会場:JST東京本部別館1Fホール(東京・市ケ谷)
参加費:無料
主催:科学技術振興機構、東京工業大学
後援:特許庁
発表内容一覧
発表内容詳細
- 創薬
1)遺伝子不活性化マークを生細胞で観察できる蛍光プローブ
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 教授 木村 宏
新技術の概要
ヒストンH3の27番目のリジンのトリメチル化(H3K27me3)は、X染色体の不活性化など遺伝子の発現制御に重要な役割を果たしており、また、多くのがん細胞で異常が見られる。本発明は、生きた細胞内でH3K27の存在量や局在を評価できる技術の開発であり、創薬や雌雄判別に有用である。
従来技術・競合技術との比較
H3K27me3の検出には、既存の抗体を用いることも可能であるが、生細胞で定量的に解析できる技術は存在していなかった。
新技術の特徴
・生細胞・生体内でH3K27me3レベルを計測できる
・生細胞・生体内で不活性X染色体を検出できる
・細胞の分化状態を評価できる
想定される用途
・酵素阻害剤のスクリーニングと薬効評価
・ほ乳類の雌雄判別
・iPS細胞の誘導と分化の評価
- 材料
2)有機エレクロトニクス材料が容易に得られる新しい芳香環化反応
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 助教 庄子 良晃
新技術の概要
本発明は、アルキン類(炭素–炭素三重結合化合物)を簡便なワンポット反応で芳香環化する技術を提供する。入手容易かつ多様なアルキン類から、複雑な分子骨格や三次元的なπ共役系など、特徴ある拡張π共役骨格の合成が可能になる。クロスカップリングと相補的に用いれば、π共役材料のデザイン可能性が飛躍的に高まる。
従来技術・競合技術との比較
従来、π共役系が拡張した化合物の合成には、複雑な多段階のクロスカップリング反応や芳香環構築反応が必要であった。本技術では、ボラフルオレンという含ホウ素化合物を用いることで、合成容易なアルキン前駆体から簡便な操作で拡張π共役系を構築することができる。
新技術の特徴
・簡便な操作により、アルキン類をワンポットで芳香環化することが可能
・必要な操作は、アルキン類とボラフルオレンを混合、加熱かく拌し、最後に酸化剤を加えるだけ
・クロスカップリングのみでは合成が困難な、特徴ある拡張π共役系を一挙に構築することが可能
想定される用途
・有機半導体およびそれらのビルディングブロック合成
・有機発光材料およびそれらのビルディングブロック合成
・ホスト材料、表面修飾材およびそれらのビルディングブロック合成
関連情報
・サンプルあり
- 材料
3)電気信号によって変形・変位するガラス素子 〜ガラスアクチュエータ〜
東京工業大学 物質理工学院 材料系 教授 矢野 哲司
新技術の概要
本発明は、光学的透明性を有し、イオン伝導性および誘電特性、熱膨張特性を制御したガラス材料を組み合わせて層構造素子として構成させることで、電圧の印加に対して誘導されるイオン伝導と空間分極により応力を誘起し、電気信号(電圧)に応じたガラス素子の変形、変位をもたらす。
従来技術・競合技術との比較
電気-力学エネルギー変換素子としては、ロボットへの活用が期待されるポリマーアクチュエータがある。これは高温で使用できず、剛性が低く用途が限られる。一方、圧電セラミックスは、透明性に欠ける、高電圧の印加が必要、動作温度域が狭い。本ガラスアクチュエータは上記の問題点を補完するとともに新規の特徴を有する。
新技術の特徴
・ガラスであることから光学的透明性を有し、光の反射、屈折などの光波制御を可能とする等方性材料である。
・誘電体のようなキュリー点や相転移がなく、動作温度範囲を広くとることができる。
・利用温度域としては、比較的高い温度(0~400℃)での動作が可能である。
想定される用途
・MEMS光スイッチなどの光路・光路長を変えることのできる変位素子
・物の移動、運搬、音の発生のための振動素子
・力を電気信号に変える圧電特性を有するセンサー
- 創薬
4)DNAの精製操作を要しない簡便・迅速な形質転換技術
東京工業大学 生命理工学院 助教 金子 真也
新技術の概要
微生物間におけるDNAの水平伝播を模して、プラスミドDNAを抽出・精製することなく、迅速かつ簡便に目的の宿主に導入する形質転換技術を開発した。大腸菌などで作成したプラスミドライブラリーを同時に複数の目的宿主に導入したり、精製過程でダメージを受けやすい長鎖プラスミドDNAを用いた形質転換に効果的である。
従来技術・競合技術との比較
従来、形質転換に用いるDNAは煩雑な生化学的な抽出・精製が必要とされてきた。特に50kbを越える長鎖DNAは長大なポリマーであるため精製操作において物理的ダメージを受けやすく取扱いが困難であった。さらに接合伝達法と比較して培養条件も限定的でないため、汎用的な操作法として活用可能である。
新技術の特徴
・プラスミドを持つ細胞(大腸菌や枯草菌)を溶菌し、溶菌液を直接用いて形質転換する。
・迅速、簡便でオートメーション化が可能
・精製過程でダメージを受けやすい長鎖プラスミドDNAに効果的
想定される用途
・大腸菌で作成されたプラスミドライブラリーを目的の宿主(例えば酵母など)へ個別に導入する。
・オートメーション化により自動形質転換法の確立
・複数の遺伝子を含む長鎖遺伝子クラスターを目的の宿主に導入する。
関連情報
・外国出願特許あり
- 医療・福祉
5)瞳孔変動を利用したキャリブレーションのいらない視線入力装置
東京工業大学 工学院 情報通信系 教授 金子 寛彦
新技術の概要
視線対象の輝度変動と瞳孔変動の対応に基づいて、視線方向により情報入力を行う装置である。テンキーや50音の文字が並ぶ画面を用いて、任意の対象に視線を向けることにより情報を入力する。用途としては、キーボードなどの入力装置が使えない障害者を主な対象とするが、一般の装置での使用も検討する。
従来技術・競合技術との比較
同様の目的を持った装置は多く開発されているが、従来技術と比較して原理が全く異なり斬新である。利点は、安定した生体反応である対光反射を指標として用いるので、個人内、個人間で安定して使用可能である点である。また、キャリブレーションも基本的に不要である。
新技術の特徴
・対象輝度変動と瞳孔変動の対応に基づいて視線位置を推定
・キャリブレーションフリー
・安定した出力
想定される用途
・障害者のための視線情報入力
・一般機器における情報入力
関連情報
・デモあり
- 計測
6)ゴム管の音響特性を用いた柔らかさと感度を両立する戸挟み検出装置
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授 田原 麻梨江
新技術の概要
電車扉にベビーカーや紐が挟まる人身事故が年に10件程度発生している。本技術は、ゴム管を音響導波路として扱うことで1mm程度の変位を数秒で検出可能な柔らかさと感度を両立する戸挟センサである。イヤホン、マイクによる入出力装置と汎用的な信号処理による簡易構成で実現できることが特徴である。
従来技術・競合技術との比較
従来の電車扉はモータで戸挟を検出しており紐や杖など細いものは検出できない。空気圧センサは検知部が硬くなりセンサも複数必要、圧電センサは製作工程増と検出が1方向で厚みも5㎜以上といった課題がある。本方式は簡易構成でありながら紐等の1mm程度の厚みを検出可能な柔らかくて高感度なセンサである。
新技術の特徴
・ゴムを用いた柔らかくて高感度な変位センサ
・検出領域が非金属
・マイクイヤホンを用いた簡易システム
想定される用途
・電車戸挟み
・工作機械の挟み検出
・各種扉
- 機械
7)磁気駆動を用いた非接触3次元精密マニピュレーション技術
東京工業大学 工学院 機械系 助教 松浦 大輔
新技術の概要
互いに対向配置された6本の磁極に設置したコイルへの印加電流を制御することで、直径数百μmの空間内の磁場を制御し、その中にある微小磁性粒子(直径数μm)の3次元空間位置を非接触に制御可能。磁力を用いるため、生物材料に透過性的かつダメージを与えないため、バイオエンジニアリング等への応用が期待される。
従来技術・競合技術との比較
マイクロメートルオーダの微小マニピュレーションには、原子間力顕微鏡やレーザー光線を用いた光ピンセット等が競合技術として考えられるが,カンチレバーのコンタミネーションやレーザー光線による試料へのダメージが発生しないこと、また試料の内部に力を発生させることが可能であること等が優位点として挙げられる。
新技術の特徴
・微小粒子の非接触3次元精密マニピュレーション技術
・上記技術に基づく微小作用力の制御技術
・試料の表面のみならず、内部に力を発生させることが可能
想定される用途
・バイオエンジニアリング(細胞の物理特性の試験など)
・3次元中空複雑形状の精密造形
・流体力の3次元精密計測
- 通信
8)機器を配線から解放する安全な光無線給電システム
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授 宮本 智之
新技術の概要
光源と受光部の経路を空間分割あるいは時分割で利用することで、1)経路の光強度密度抑制により危険度を抑えることができる、2)一部の経路が使えない状態においても他の経路を用いて給電することができる、3)給電のための配線や新たな機器追加時の工事が不要となる、という効果が得られる。
従来技術・競合技術との比較
無線給電システムには、電磁誘導を利用した電動歯ブラシ、スマートフォンなどの例がある。これらは送信源と受信源の距離が数mm~数cmと短い。レーザー光を用いた無線給電は発電所クラスの大電力給電を意図した、送受信が1対1のシステムもあるが、本技術は数mの距離の複数間の給電を想定したものである。
新技術の特徴
・光源と受光器の少なくとも一方あるいは双方が複数個で構成される光無線給電システム
・1つの光源から複数の受光器へ時分割で給電する光無線給電システム
・複数の光源から1つの受光器へ連続あるいは時分割で給電する光無線給電システム
想定される用途
・天井に設置された複数の光源から、居室内の複数の機器に給電するシステム
・光源と受光器の間で情報をやりとりして、経路を制御するシステム
・多重送電により給電パワーを確保する、または時分割送電により給電パワーを抑える
- デバイス・装置
9)スーパー高感度異常ホール効果磁気センサー
東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授 Pham Nam Hai
新技術の概要
本技術は室温強磁性半導体(InFe)Sbの作製方法およびのその異常ホール効果を利用する「スーパー高感度異常ホール効果磁気センサー」を提供する。本技術は(InFe)Sbの異常ホール効果を用いることによって、実用化されている超高感度InSbホール効果磁気センサーよりも高い感度を持つスーパー高感度磁気センサーを実現できる。
従来技術・競合技術との比較
ホール効果の感度は電子の移動度で決まるが、移動度は材料の固有値であり、改善余地がない。それに対して、異常ホール効果はスピン軌道相互作用によって生じる量子力学的な効果であり、磁性体の磁化およびスピン軌道相互作用を増大させることによって強くすることができるため、改善余地が大きい。
新技術の特徴
・常温動作強磁性半導体
・異常ホール効果
・スピン軌道相互作用
想定される用途
・高感度の位置検出センサー
・高精度な回転センサー
・電子コンパス
関連情報
・サンプルあり
- 環境
10)高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減
東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所 准教授 鷹尾 康一朗
新技術の概要
使用済み核燃料の再処理に伴って発生した高レベルの放射性廃棄物に含まれる様々な放射性核種をホウケイ酸ガラスマトリックス中に閉じ込めたガラス固化体に対して温和な条件で酸性水溶液を接触させることにより、ガラスマトリックスを破壊することなく所望の核種を分離・回収するものである。
従来技術・競合技術との比較
溶融塩電解や液体金属を用いた還元反応によりガラスマトリックス事態を完全に分解することは、ガラス固溶体として一旦は安定に閉じ込めたはずの高レベル放射性廃棄物全てを取り出すことに繋がるため、漏えい・拡散等のリスクを再発させることが避けられない。また、溶融塩等高温条件を用いる手法はプロセス上多大なる負荷を生じる。
新技術の特徴
・ガラス固化体のガラスマトリックスを全て破壊することなく、放射性核種を分離・回収できる。
・核変換処理を行う必要のある長寿命核種等を抽出分離・回収できる。
・100℃以下の温和な条件下での湿式処理である。
想定される用途
・原子力発電における高レベル放射性廃棄物の保管・処理・処分の負担の軽減。
・将来的な核変換処理による放射性廃棄物減容・有害度低減に向けた放射性核種の閉込め及び取出しの自在制御
お問い合わせ
連携・ライセンスについて
東京工業大学 研究・産学連携本部
TEL:03-5734-2445 FAX:03-5734-2482Mail:sangakusangaku.titech.ac.jp
URL:http://www.sangaku.titech.ac.jp
新技術説明会について
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
TEL:03-5214-7519
Mail:scettjst.go.jp