産業技術総合研究所 新技術説明会
日時:2018年09月20日(木) 09:55~15:55
会場:JST東京本部別館1Fホール(東京・市ケ谷)
参加費:無料
主催:科学技術振興機構、産業技術総合研究所
後援:特許庁、関東経済産業局
発表内容一覧
- 風圧分布を可視化するフィルム状ひずみセンサーマトリクス
- 表面処理分野における機能性付与とプロセス・インフォマティックス・ツール
- 低温プラズマ焼結を用いた印刷銅配線形成と野球帽ラジオ
- ポリマーブラシの量産化を可能にする重合開始層の連続成膜技術
- 新規産業の創出を目指した多様な先進プラズマプロセス技術
- トンボ由来の新規紫外線反射物質
- 簡単!低コスト!ヒト神経細胞研究の基盤技術の構築
- 高機能な小型人工タンパク質の創出と、抗体品質分析への展開
- 抗体医薬品における抗体凝集体の除去抑制法の開発
- w/oドロップレット内での微生物培養・酵素反応およびそれらの検出技術
- 新規光応答ポリマー材料が実現する革新的細胞操作・培養システム
発表内容詳細
- デバイス・装置
1)風圧分布を可視化するフィルム状ひずみセンサーマトリクス
産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 印刷プロセスチーム 研究員 金澤 周介
新技術の概要
樹脂フィルムの柔軟性を利用して風圧分布を取得する技術を開発した。受ける風圧に応じてフィルム面内に生じるひずみを、表面に印刷したひずみセンサーマトリクスで多点検出する。曲面上での計測や大面積計測も可能であり、オートモーティブの低燃費や環境計測など、多彩な用途展開が期待できる。
従来技術・競合技術との比較
従来技術による風圧分布計測は圧力計や風速計を並べて配置するため高密度な多点計測が難しく、また1つ1つが高価なセンサを多数配置することもコスト上の制約があった。開発したセンサーはマトリクス化の技術を用いることで高密度計測を低いコスト負荷で実現できることに利点を有する。
新技術の特徴
・風圧分布を高密度に取得することで風圧のイメージング(可視化)が可能
・フィルム状のセンサーのため曲面への固定や大面積化への対応も可能
・印刷技術とフィルムのカッティングによりセンサーが作製できるため低コスト製造に有利
想定される用途
・車体や機体にかかる空気抵抗のイメージング
・室内を巡る気流の計測
・容器内等で起こる液体の対流の計測
関連情報
・デモあり
- 製造技術
2)表面処理分野における機能性付与とプロセス・インフォマティックス・ツール
産業技術総合研究所 製造技術研究部門 積層加工システム研究グループ 研究グループ長 廣瀬 伸吾
新技術の概要
産総研オリジナルの「表面処理技術」を紹介するとともに、表面処理プロセスをインフォマティクス(情報化)の観点から研究開発したITツールとそれらの活用事例を紹介する。
従来技術・競合技術との比較
ソフトウェアとしては、品質管理に数理モデルを取り組み熟練者の技能を蓄積、解析、提示する手法を紹介。従来の品質管理システムに、新たに加工の知識やカン、コツと呼ばれる属人的な対象をソフトウェア化している。また、表面処理技術に関しては、従来よりも高速で鏡面化や低温で処理するなど保有する特許技術を基に、他では困難な独自の手法について紹介する。
新技術の特徴
・熟練者の属人的な技能やノウハウをソフトウェアに
・電解砥粒研磨による高速鏡面化や発色
・微粒子を用いた低温コーテイング
想定される用途
・自動車部品
・太陽電池
・製造工程のIT化(IoT化・ICT化)
関連情報
・サンプルあり
- 製造技術
3)低温プラズマ焼結を用いた印刷銅配線形成と野球帽ラジオ
産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 総括研究主幹 白川 直樹
新技術の概要
印刷によってフィルム基板上に銅配線を形成するには、銅の酸化を防ぎながら低温で銅粒子を焼結する技術が欠かせない。低温プラズマ焼結では、固体電解質型酸素ポンプにより、窒素中の酸素分圧を銅酸化物が自発的に銅と酸素に分解するまで低下させ、その窒素中で大気圧プラズマにアシストされた焼結を行なう。
従来技術・競合技術との比較
競合技術の代表は光焼成であり、短時間処理に特徴がある。ただし瞬間的・過渡的な高温を利用するため、銅配線各部分での線幅・膜厚の差から来る熱容量の違いにより、均一な焼成結果を得るのが難しい。水素プラズマについては、概ね300℃以上の高温プロセスとなっている(温度が明記されていない文献もあり)。
新技術の特徴
・180℃以下の低温プロセス
・バルク銅並みの低抵抗
・微粒子の集合がボイドフリーな金属組織へ変化
想定される用途
・IoTデバイス/トリリオンセンサーへの印刷銅配線導入
・チケット/ポスター型情報端末(紙の上に直接銅配線形成)
・タッチパネル用銅メッシュ透明電極
関連情報
・サンプルあり
・デモあり
・展示品あり
・外国出願特許あり
- 材料
4)ポリマーブラシの量産化を可能にする重合開始層の連続成膜技術
産業技術総合研究所 構造材料研究部門 材料表界面グループ 主任研究員 浦田 千尋
新技術の概要
ポリマーブラシの合成には、重合の起点となる重合開始層の形成が必要不可欠である。新技術では、ゾル−ゲル法を用いることで、roll-to-roll法による重合開始層の連続成膜/大面積処理(40cm x 100m)が世界ではじめて可能になった。
従来技術・競合技術との比較
これまで、ポリマーブラシ合成に必要な重合開始層の形成には、基材を反応溶液に長時間浸漬させるバッチ処理が主として用いられてきた。量産化に適した重合開始層形成に関する研究はほとんど行われてこなかった。これがポリマーブラシの量産化を妨げる要因の一つになっていた。
新技術の特徴
・ポリマーブラシ合成用重合開始層の連続成膜/大面積処理可能
・優れた密着性
・低コスト/低環境負荷
想定される用途
・防曇材料
・メッキの下地処理
・低摩擦材料
関連情報
・サンプルあり
- 製造技術
5)新規産業の創出を目指した多様な先進プラズマプロセス技術
産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 先進プラズマプロセスグループ 主任研究員 金 載浩
新技術の概要
高い圧力(1Torr ~大気圧)において安価・低電力・コンパクト・長寿命、かつ空気を含め様々なガスを用いて低温プラズマ装置の製作が可能となりました。さらに、アレイ化による大規模化にも成功しており、エレクトロニクス産業の次世代プロセスツールとしての応用展開を行っています。
従来技術・競合技術との比較
従来のプラズマ生成技術では、プロセス圧力に対して異なる装置が必要であり、かつ放電特性・低温化・大規模化において限界が生じています。本研究では、マイクロストリップ線路技術を用いたマイクロ波プラズマ生成技術を確立することにより、従来の限界を乗り越えたプラズマ生成技術を提供することができます。
新技術の特徴
・マイクロストリップ線路技術により、コンパクトな高密度マイクロ波プラズマ装置を実現
・アレイ化技術による高圧・低温・大面積プラズマ生成を実現
・高密度プラズマ処理装置の安価な製作を実現
想定される用途
・高圧力での高速薄膜合成
・大気圧におけるダメージレス低温・大面積・高速表面処理
・ライン生産を可能とさせる高スループットプラズマ処理
関連情報
・外国出願特許あり
- 材料
6)トンボ由来の新規紫外線反射物質
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 生物共生進化機構研究グループ 主任研究員 二橋 亮
新技術の概要
太陽光中の紫外線は、過度に浴びると皮膚に悪影響をもたらすため、抗紫外線作用を有する薬剤が求められている。今回、トンボがユニークな紫外線反射ワックスを分泌していることを発見し、その合成物でも同様な効果が再現されたので、新規紫外線反射剤の候補として紹介する。
従来技術・競合技術との比較
紫外線反射作用を有する物質として、従来は酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物が使用されていたが、過度の使用によって毒性が観察された例が報告されている。今回着目したシオカラトンボは、かつては漢方薬として使用されていたことから、その体表ワックスは毒性が無く、安全な紫外線反射剤の候補と考えられる。
新技術の特徴
・UV反射ワックスとして、他の生物から従来知られていない組み合わせの物質を発見
・ワックス主成分の人工合成物でも、強い紫外線反射と撥水性が再現
・結晶化の方法によって紫外線反射の強度を調節可能
想定される用途
・紫外線反射や撥水性を向上させる添加物としての利用
・化粧品分野での利用
・塗料組成物としての利用
関連情報
・外国出願特許あり
- 創薬
7)簡単!低コスト!ヒト神経細胞研究の基盤技術の構築
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 脳機能調節因子研究グループ 研究員 平野 和己
新技術の概要
本発明者らは、転写を調節するLSD1という因子がヒト特異的に神経分化を誘導する働きがある事を明らかにしている。そこで、効率的にヒト神経細胞を得る為に、LSD1の活性を調節するFADの細胞内導入技術を確立し、ヒト神経幹細胞を神経細胞へ分化させる培養においてFAD処理が誘導効率を増加させる事を見出した。
従来技術・競合技術との比較
組み換えタンパク質を用いた神経分化誘導を4週間行う従来法では、神経分化誘導効率が43%であったが、本発明であるFADを利用した単純な神経分化誘導培地を用いる事で、1週間の誘導で66%の誘導効率を達成する事が出来た。すなわち簡便・低コストな方法で、期間を1/4に短縮し、効率を1.5倍にまで高める事に成功した。
新技術の特徴
・ヒト神経幹細胞を用いたヒト神経細胞への簡単な分化誘導法
・組み換えタンパク質を使わない低コストな培養系
・創薬から基礎研究まで汎用性に富んだ技術
想定される用途
・創薬スクリーニング
・薬効・毒性評価
・研究用ヒト神経細胞誘導培地
関連情報
・外国出願特許あり
- 創薬
8)高機能な小型人工タンパク質の創出と、抗体品質分析への展開
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 分子細胞育種研究グループ 主任研究員 渡邊 秀樹
新技術の概要
我々はこれまで、数十残基の小型人工タンパク質を創出する進化分子工学技術を構築し、非天然の機能をもつ小型人工タンパク質の作出や、機能性ペプチドの4万倍以上の高機能化などに成功している。これら分子の応用展開として、抗体の高次構造に特異的な小型人工タンパク質を活用した抗体医薬品の品質分析技術を開発した。
従来技術・競合技術との比較
開発した小型人工タンパク質は、化学合成が可能な低分子量でありながら、抗体抗原相互作用に匹敵する高親和性・特異性を有する。この分子認識能を活用した抗体医薬品の品質分析技術は、先行技術のクロマトグラフィや分光法の欠点を補完する、高感度・高速・高効率な抗体医薬品の品質分析を可能とする。
新技術の特徴
・数十残基で高機能をもつ小型の人工タンパク質
・小型さを特徴とした、化学合成による製造、耐凝集性、酸・アルカリ・有機溶媒耐性
・抗体医薬品の変性構造を特異的に認識する品質分析技術
想定される用途
・抗体代替となる、小型タンパク質医薬品や小型タンパク質センシング分子
・抗体医薬品の品質分析技術
・機能性ペプチドの高機能化技術
関連情報
・外国出願特許あり
- 創薬
9)抗体医薬品における抗体凝集体の除去抑制法の開発
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 分子細胞育種研究グループ 研究員 千賀 由佳子
新技術の概要
本技術は、ヒトIgGのFc領域における非天然型構造を識別可能な人工タンパク質AF.2A1を活用して、抗体溶液中における凝集体の形成を抑制する方法である。既存技術で除去することが困難な非天然型モノマー抗体および小さな凝集体を取り除くことが可能である。これにより、抗体医薬品の長期安定的な保管に貢献できる。
従来技術・競合技術との比較
0.22μmフィルターによる凝集体除去や界面活性剤およびアルギニンなどの添加剤による凝集体抑制法が用いられているが、完全に凝集体の除去および発生抑制はできていない。本技術では、抗体IgGのFc領域に結合するペプチド(WO/2014/115229)を利用しており、網羅的な凝集体除去が可能である。
新技術の特徴
・抗体医薬品の製造において、これまで取り残されていた粒径の小さい抗体凝集体の除去が可能
・様々なストレスによって生じた凝集体の除去が可能
・凝集前駆体の除去により、保管中の抗体溶液からの凝集体発生が低減することを発見
想定される用途
・抗体Fc領域を含む医薬品の凝集体除去ツール
関連情報
・外国出願特許あり
- デバイス・装置
10)w/oドロップレット内での微生物培養・酵素反応およびそれらの検出技術
産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 バイオアナリティカル研究グループ 研究グループ長 野田 尚宏
新技術の概要
W/O (Water-in-oil)ドロップレット内で微生物の培養を行うとともに、微生物が増殖したドロップレットのみを選択的に分取する技術を開発した。また、W/Oドロップレット内で酵素反応を行い、高い活性を示す酵素や酵素阻害剤のハイスループットスクリーニングにも応用可能である。
従来技術・競合技術との比較
W/O (Water-in-oil)ドロップレットは一度に数十万から百万個以上を作製することができる。マイクロウェルプレートでのアッセイに比べ、ハイスループットなアッセイを実現することができる。
新技術の特徴
・w/oドロップレット内での微生物培養
・w/oドロップレット内での酵素反応
・w/oドロップレットを基盤としたハイスループットスクリーニング
想定される用途
・高活性酵素のハイスループットスクリーニング
・酵素阻害剤のハイスループットスクリーニング
・微生物資源からの有用物質のハイスループットスクリーニング
関連情報
・サンプルあり
- 材料
11)新規光応答ポリマー材料が実現する革新的細胞操作・培養システム
産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 医薬品アッセイデバイス研究グループ 上級主任研究員 須丸 公雄
新技術の概要
光照射に応答して薬物を培養基材表面からリリース、直上の特定の細胞、さらにはその特定の部位に送達することで、細胞培養系の薬物作用を時空間制御する技術を新たに開発した。また、養分や酸素の供給効率の向上が見込まれる新しい3次元細胞培養足場の構築技術を開発した。
従来技術・競合技術との比較
従来技術とは異なり、μmスケールの位置分解能で基材底部から光で薬物を細胞に投与できる。光応答ポリマー材料は、インクジェットを含む塗布技術に対応、乾燥状態で保管でき、量産や多品種化、流通における優位性は圧倒的、高感度でシャープな光応答性は、画像技術やAIに基づく自動化の実現に好適である。
新技術の特徴
・細胞培養系の狙った箇所に任意のタイミングで薬物を光で局所送達
・高密度・高効率細胞培養を実現する新規3次元培養足場
想定される用途
・薬物の精密細胞アッセイ
・高密度・高効率細胞培養
・細胞選別・純化の自動化
関連情報
・外国出願特許あり
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